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業務改善助成金の実態-気を付けたい落とし穴-

最低賃金の引き上げが毎年のように実施されています。
2024年度(令和6年度)も、全国平均で過去最大の63円アップ。
東京都ではすでに1,226円となり、政府は将来的に「全国平均1,500円」を目指すと公言しています。
この流れに賛否はありますが、従業員10~20名規模の中小事業者にとっては、大きなインパクトであることに変わりはありません。
そして、そうした声に対する政府からの決まり文句が「業務改善助成金をご活用ください」。
では実際、この制度は中小企業の力になるのでしょうか?
業務改善助成金とは?
業務改善助成金とは、最低賃金の引き上げとともに、業務効率や生産性を高めるための設備投資などを行う企業を支援する制度です。
この制度を簡単に説明すると
- 賃金を引き上げる
- 同時に、業務効率化のための設備を導入する
- その設備導入費用の一部を助成する
と、なります。
具体的な対象設備の例としては、製造機械、キャッシュレスレジ、業務用ソフトウェアなど。
実際には数十万円~百万円単位の投資が必要になるケースも多く、事業者にとっても慎重な判断が求められる場面です。
業務改善助成金の落とし穴

毎年、最低賃金の引き上げが発表される時期になると、業務改善助成金に関する問い合わせが急増します。
YouTubeやSNSでも紹介され、「実質無料で機械が導入できるかも?」という期待が高まるのも当然かもしれません。
しかし、制度の仕組みは、決して即効性のあるものではありません。
なぜなら、業務改善助成金は以下の流れで支給されるからです。
- 賃上げ計画の作成
- 購入予定の設備についての見積もりを取得
- 交付申請(=労働局に「この設備導入で助成金を申請したい」と申請)
- 審査
- 交付決定が出てから実際の購入・支払いを行う
- 設備導入後、助成金の申請・支給
ここで重要なのは、交付決定が出るまで、設備の導入や支払いができないという点。
納期や在庫の都合で「今すぐにでも発注したい」となる場合、この制度がネックになる可能性があります。
また、審査は各労働局で行われますが、担当者の数には限りがあります。
東京都のような申請数が多い地域でも、対応できる職員はごく少数というのが現実です。
実務上のリスク
弊社でも業務改善助成金についてご相談を受けることはあります。
その際には、必ずこうお伝えしています。
「スケジュールにゆとりがあり、申請・設備導入・報告まで腰を据えて取り組める体制がある場合にのみ、前向きに検討してください」
なぜなら、以下の要因があるからです。
- 助成金の申請は、その設備が生産性向上に資することの説明責任が伴う
- 労務管理体制が整っていないと、そもそも申請が受け付けられない
- 設備導入スケジュールと助成金審査スケジュールがズレると、仕入先や取引先との関係に支障が出る(たとえば見積もらって2か月後には買う予定が、審査が長引いて半年以上も保留状態が続くことも…)
また、助成金の財源は雇用保険料など公的資金であり、当然ながら審査は厳格に行われます。
「通りやすい助成金」というわけでは決してありません。
助成金申請前によく考えてみてください
業務改善助成金は、確かに中小企業を支援する制度ではあります。
しかしその活用には、次のような準備と覚悟が必要です。
- 労務管理体制が整備されていること(就業規則、雇用契約書、賃金台帳等)
- 設備導入を焦らない
- スケジュール設計申請から支給まで数ヶ月単位で待てる
- 余裕書類作成ややり取りに時間をかけられる体制
業務改善助成金は、「最低賃金の引き上げがつらいから、助成金でなんとかしよう」という考えで飛びつくと、むしろ負担ばかりが増えてしまう可能性があります。
使いこなすには、労務整備・資金計画・導入スケジュールなど複数の視点から慎重に検討することが必要です。