
お知らせ
社労士が就業規則にうるさいワケ
私に限らず、社会保険労務士の方に就業規則について語らせると、必ずと行っていいほど
「作ったほうがいいですよ~」
と、しみじみ語ってくださいます。
専門家でない方から言わせると
「いや、そうなんでしょうけど(汗)……」
「そもそもうち10人未満(※)なんだけど、それでも?」
※10人未満の事業所は労基法上作成義務がありません
というリアクションになること必至なのですが、
なぜ、社会保険労務士の方は口を揃えて就業規則を作ったほうが良いというのか。
今日はこれについて解説していきたいと思います。
これも色んな角度からお話ができますが、
今回は【判例】という側面からお話します。
「秋北バス事件」(最高裁昭和43年12月25日) というこれまた(社会保険労務士の間では)非常~~~~に有名な最高裁の判例があります。
この事件の概要は
・それまで主任以上の社員には定年の定めはなかった
・会社は昭和32年4月1日
「従業員は満50才を以って、
主任以上の職にあるものは満55歳を以って、定年とし、定年に達したる者は退職」
という定めに変更した
・会社は社員であるXさん(主任以上)をすでに55歳に達していることを理由に解雇
(嘱託として再雇用する意思表示はあり)
・社員であるXさんは、「こんな変更に同意したことはない!無効だ!」として、解雇の 無効を訴えた
といったものです。
この裁判、地裁ではXさんの主張が認容されましたが、
高裁・最高裁ではXさんの主張が退けられるという 逆転の展開になりました。
そして注目すべきは下記のポイントです。
〔以下引用〕
就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。
〔引用終わり〕
この部分から読み取れるのは
事業主の責務として就業規則を作成・変更した後は「周知させる〔ex社員でも見れる場所に置くor データで保存しておく〕」必要がありますが、そこまでの措置をとることができれば、その措置が取られている限り「知らなかったからしょうがない」と言う理屈は通さない、ということもできるということです。
つまりは、「周知」の措置が取られている限り、それを読んで、理解して遵守しながら労務に服することは従業員の義務である、という形にもとることができます。
もちろん、できた就業規則は、どこかに設置したらどこに置いてあるかの周知もお忘れなく💡
また、この判例では以下のようなことも述べられています。
〔以下引用〕
「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきである
〔引用終わり〕
つまり、就業規則に対して反論や違反した人が
「私は就業規則のこの部分には反対なので、ここには同意できない、だからこの部分は無効だ」と抗弁したとしても、それが合理的な内容である限りは、それに従わないことは許されないと言うことになります。
いかがでしたでしょうか。
以上の判例から、なぜ、社会保険労務士が就業規則をつくったほうがいいと口をそろえて言うのか、ご理解いただけたのではないでしょうか。
就業規則をつくるのは、労務に関して、会社としてルール・正当性を担保するための唯一かつ最大の手段ということができるということをご理解いただけたのではないでしょうか。
就業規則を作っておくことは「もしもトラブルが起きたときにも勝てる土俵を予めつくっておく」という意味で非常に重要なものと言えます。
「トラブルに勝てる土俵づくり」というと、社員と良好な関係をつくっている経営者様・管理職の方ほど
「就業規則の作成に力をいれるのは頑張っている社員を無下に警戒し、敵に回しているように思えて、気が引ける」
と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これについて、否定はしませんが、「信頼関係を築き、頑張ってくれている善良な社員」の方を突き放すために存在するのではありません。
事業が成長し、採用をしていけば、必ず、「どうしても合わない」「トラブルの種になる」「問題ばかり起こす」社員の方には必ず出会うことがあるでしょう。
そうなったときに、そうした社員やそのトラブルから「信頼関係を築き、頑張ってくれている善良な社員」を守るために、就業規則は存在します。
ぜひとも御社でも就業規則が勝てる土俵づくりになっているか確認してみてはいかがでしょうか。