お知らせ
年末調整で「どの働き方が得か?」と聞かれたら「知らない」と答えましょう
年末が近づくと、パート・アルバイトスタッフからよくある質問があります。
「年収の壁ってありますよね?いくらまで働いたら損しませんか?」
結論から言えば、「知らない」と答えて大丈夫です。
年収の壁はより複雑に。
近年、「年収の壁」はますます多様化・複雑化しています。
- 103万円の壁 → 123万円に引き上げ(所得税)
- 特定扶養親族(大学生年齢)→ 150万円の壁
- 社会保険の130万円の壁 → 一定条件下では150万円までOKに
- 住民税の壁 → 100万円
- 厚生年金・健康保険の加入要件 → 106万円の壁(勤務時間・人数・勤務日数の条件あり)
ひとことで「年収の壁」と言っても、税制・社会保険制度・家族の扶養関係によって何通りものパターンがあり、どの「壁」がどれだけ影響するかは、その人の生活背景や家族構成次第です。
配偶者に扶養されているのか、親の扶養に入っているのか、本人が扶養する側なのか。
また、扶養している側の所得状況にも左右されます。
つまり、「この人は○○万円まで働いたほうが得」という答えは、会社側では判断できないのです。
親切心が過剰対応に変わるリスク
人手不足の現場では、つい「丁寧に対応してあげたい」という気持ちが先に立ちます。
たしかに、「うちの会社、親切ですね」と思ってもらえることはあるかもしれません。
しかし、実際に相談に乗った結果、もしスタッフが壁を越えてしまった場合に、責任を問われる可能性がゼロではないことも事実です。
「あなたがあのとき『大丈夫』と言ったから…」と、トラブルや信頼の揺らぎを生むリスクを抱え込むことにもなりかねません。
さらに、一人に対応し始めると、他の従業員にも同様の対応をせざるを得なくなり、対応が際限なく広がっていく危険性もあります。
ベストな対応は「知識提供+自己判断」

では、人事労務担当者として、どこまで対応すべきなのか。
おすすめしたいのは、「制度の知識提供にとどめる」というスタンスです。
たとえば、以下のように伝えると良いでしょう。
「年収の壁にはいろいろあります。税金や社会保険など、制度ごとに基準が違います。
どこまで働くかの判断は、ご本人とご家族での確認をお願いしますね。」
このように、「知識は共有するが判断は委ねる」という立場を明確にしておくことで、過剰な責任を背負うことなく、必要な情報だけを提供できます。
親切と責任のバランスを見誤らない
年収の壁に関する相談は、今後もなくなることはないでしょう。
そして人手不足の今、従業員の声に耳を傾けたいという気持ちも自然なことです。
でもだからこそ、「できること」と「できないこと」をあらかじめ線引きしておくことが、会社にとっても、人事担当者自身にとっても、自衛になるのです。