お知らせ
「働いてまいります」から社労士が考えるワークライフバランス
2025年は、高市首相の発言が大きな話題となりました。
「ワークライフバランスという言葉を捨てます」
「働いて、働いて、働いて、働いて、働いて参ります」
現在の時代背景を考えると、かなり強烈なメッセージです。
SNSやメディアでは物議を醸しましたが、個人的には「なるほど、そういう考えもある」と共感する部分もあるというのが率直な感想です。
経営者や管理職、あるいは「これから成長したい」という層にとっては、きっと腑に落ちる部分もあったのではないでしょうか。
今回は、この件について社労士目線と私個人の目線から解説します。
「働ける」は素晴らしいこと。働けるうちに働いておくべき

私自身、かつては時間も体力も惜しまず仕事に打ち込めた20代がありました。
一方、結婚や子育て、加齢によって時間的にも体力的にも制約がある現在は、あの頃のようには働けません。
「働きたいのに働けない」という現実は、思った以上に大変です。
だからこそ、いまの20代、30代前半の働き盛り世代にはこう伝えたい。
「時間と体力があるうちに、思い切り働いておきなさい」
この感覚は、働きすぎを助長するものではなく、むしろ人生のステージごとの最適な働き方を認めようという姿勢に近いのかもしれません。
「働きたい人まで制限される社会」は健全だろうか?
最近は「働きすぎはダメ」「残業ゼロが理想」という価値観が強くなり、それ自体はとても大切な流れです。
しかし一方で、「働きたい人が思うように働けない」状況が生まれてしまっているのも事実です。
成果を出すために時間を使いたい。キャリアを積むために誰よりも経験を積みたい。
そんな前向きな意志を持つ人にとって、一律の残業上限は足かせにもなりかねません。
残業上限規制は…撤廃すべきではない
働けることは良いことだ、働けるうちに働きましょう。とお伝えしましたが、ここで「残業規制なんて撤廃すべきだ」と言ってしまうのは早計です。
そもそも労働基準法は「強行法規」※と呼ばれています。
※当事者の意思(合意)にかかわらず、強制的に適用される法律のルール
企業と労働者の間にはどうしても力の差があり、本人が同意したように見えても、実は選択肢がなかっただけというケースが後を絶ちません。
そのため、現行の「月45時間・年360時間」の上限規制は、本当に守られるべき人を守る最低限のセーフティネットでもあるのです。
たとえば、労働時間の制限がなければ、働きたくない人・働けない人まで巻き込まれ、無理に残業させられるリスクが高まります。
解決策は「例外の設計」にある
すべての人に一律のルールを課すのではなく、個別の意思に基づいて、柔軟に働ける道を用意することも可能です。
・本人が十分理解し、希望していることを明示する「個別同意書」を取り交わす
・それを労働基準監督署に届出るなど、公的なチェックを入れる
・成長意欲の高い一部社員に限定し、年次で見直す仕組みを設ける
このような例外の運用ルールを整えることで、「働きたい人が働ける社会」と「働きたくない人を守る制度」が両立できるのではないかと考えています。
社会保険労務士として

こうした議論において、社会保険労務士の立場はときに中立、しかし常に現実を見据えているべきだと思っています。
社会保険労務士法 第1条には、私たちの使命がこう定められています。
「個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与し、事業の健全な発達と労働者の福祉の向上を目指すこと」
働きたい人が思いきり働ける環境もまた、「個人の尊厳」に基づく選択であるならば、尊重すべきです。
その一方で、制度の運用が人を苦しめるものであってはならない。社会保険労務士はそのバランスを考え、提案し、整える役割を果たすべきだと思っています。
「働く自由」も「休む自由」も守る社会へ
ワークライフバランスという言葉をどう捉えるかは、人それぞれです。
「働く」に重きを置く時期があっても「ライフ」を優先したいタイミングがあっても良いでしょう。
大切なのは、一律の制度で縛ることではなく、働き方を自分で選べる余地を制度側が用意しておくことだと感じます。
そのバランス設計こそが、これからの時代の労務管理に求められていると、私は考えます。